NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方〈特装版〉
若林恵
選書理由:
管政権になりデジタル庁創設が報道される中、政府変革で何が起きているか気になった
構成: 官僚制を敷き縦割りで機能してきた従来型の政府に対しデジタル化によって政府自体がどれだけ可能性を広げられるか。章末には様々な文献の要約が約30のcolumnとしてあり参考になる。
感想: 公共的価値はそもそも家族や社会、コミュニティ全体により公共的価値を守ってきたが、近代化により血縁や地縁に基づく共同体が壊れたことで政府がそれを扱うのが最も効率が良いとされてきた歴史的流れがある。しかし、経済の主体が工業からサービスや情報産業に移っていくことで公共に対する価値観も多様化してきたため公共の全てを政府が担う大きな政府を作ろうとすればサービスの質が低下することは目に見えている。一方で公共サービスを民営化し政府の配給よりも優れたサービスを生み出そうとすればお金が儲かるサービスや対象のみが生き残ってしまうという矛盾が起こる。最小限のコストで最大限のニーズに応えるということが最近では求められるが、これはまさにITとの親和性が高いと考えられる。
現在の政府は近代社会からの官僚制によって、統制の聞いた人型歯車のようにチャキチャキと公的業務を遂行することによって成立してきた。人間は完全ではないので、例えばソビエトの官僚制による腐敗の影響を受けたエストニアなどは積極的にITを導入している。行政府とサーボスにはOSとアプリのような関係があり、この双方をIT化しなくてはならない。キャッシュレスのケースだと、いかにサービス(アプリ)として進もうと肝心の納税などでつまづいては意味がない。
では具体的にデジタル時代のインフラは何かというと1)通信インフラ=光ファイバ 2)リアルとバーチャルをつなぐインフラ=生体認証ID、銀行口座、スマホ3)バーチャルなデジタルインフラ=決済、デジタル本人確認4)度量衡API 5)データなどに関する規制やルール、これらを整理してデジタルの公道を作ることが大切である。デジタルIDは自分は自分であるということを証明するものであり、現在の日本では携帯電話やメールアドレスが使われているが不十分であるのは自明である。エストニアではすでに国民全員にIDが振り分けられ、ICチップ埋め込みのカードもできている。インドでも2009年からAad-haar(アーダール)という国民IDの振り分けを終えている。番号と個人とは、顔面認証、指紋認証、虹彩認証の認証により行われる。またペーパーレス実現のためデジタル実印(e-sign)の規格を用意し(オープンAPI)、本人確認を行う(e-KYC)や電子書類の保管(DigiLocher)を開発した。フィンランドでは、電子領収書(e-receipt)と電子請求書(e-invoice)を民間銀行の連盟が行なった。
市民主権の分散的データシステムのあり方を構想、研究する目的でEUの委託を受けたDECODE(Decentralized Citizen Owned Data Ecosystem)というプロジェクトが2018年にスマートシティを再構築するというレポートを出していてとても参考になる。こうした政府のOSのアップデートというものは神の視点に立って行わなければならない。デンマークでは文化人類学者を雇った理由として、市民や消費者をモルモットのように扱うのではなく人の行動や思考を調査するためのツールや方法を選択する際には調査する側に謙虚さが必要である。プライバシー保護とデータの活用の両立は大切である。集合層はまだしも個人が特定可能な個人層は還元できる可能性も大きい分リスクもあるので管理する制度設計がより重要になる。
ここではいくつかコラムに書かれていたアドホックな内容について触れていきたい。
イギリスのロジックモデルについてOutputではなくOutcomeで考えるというものがある。ここでの定義はOutcome=起こしたい変化、Output=その変化のために必要なプログラムである。順序としては、インプット、アクティビティ、アウトプット、アウトカムになり最終的に起こった変化(Outcome)こそが大事でありそこに注目すべきである。
デンマークの第一人者にガバメントイノベーションの理由について聞くと1)生産性向上の必要性2)市民の期待の高まり3)グローバリゼーション4)メディア5)デモグラフィックの変容(高齢化や人口減少)6)ショック(パンデミックやテロに素早く反応)7)気候変動やSDGs といった7つが挙げられる。
経産省による21世紀の公共の設計図の中には、従来はハードインフラとして道路ソフトインフラとして戸籍や住民票があった。今後これらがデジタル化し、リアルインフラとしては光ファイバーや電波基地局、デジタルインフラとして決済、本人確認、電子署名、デジタル化規制インフラとしてアーキテクチャやAPI、デジタルルールインフラとしては個人情報保護法といった具合に移り変わっていくと考えられている。
キャッシュレス化の意義としていくつかの側面から見ていくと。マネーサプライから見るとキャッシュレス化は社会的福祉を向上する。また、マネーロンダリングなどの犯罪活動を防ぐこともできる。現金利用者の方が所得が低いことを考えると社会政策にもなり得る。コントロールや規制がしやすくなるというメリットもある。
デンマークのデジタルセンターCEOクリスチャンベイソンはマックスウェバーの著書から官僚制について1)規制(規制が多い) 2)官僚階級制(市場競争がないゆえ、多様性がない) 3)近代的な職務執行(成果が評価できない) 4)職務活動(長期的戦略がない) 5)職務が完全に発達をとげない(階級制ゆえにITを利用しない) 6)官僚の職務執行(多様性がない)
評価:星4.5(S)
あまり知られていないが、個人的には2020年の読んだ本でTOP3には入る。
政府のDX化、それこそまさに今の国民の不満を一掃してくれるイベントなんじゃないかと本書を読むと痛感します。他の国の事例も含まれていて、別に分厚い本ではないですが参考になることばかり書いてあり良書だと思います。
こんな人に読んでほしい
この本は全員に一度読んで欲しいです。
意見は完全に私見ですので、あくまで参考までにお願いします
S 4.5 ~ 5.0 [読むと思考が変わる]
A 4.0 ~ 4.5 [持っていて損はない]
B 3.5 ~ 4.0 [時間があるときに読みたい]
C 3.0 ~ 3.5 [読まなくても良い]
Instagram: @book_itachi
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